就労継続支援B型を検討する時、「実際にいくらもらえるのか」は大きな関心事だと思います。
A型とは違い、B型は雇用契約を結ばないため「給料」ではなく「工賃」として支払われます。今日は、B型の工賃について、現実的な数字とともにお話しします。
B型の工賃の基本的な仕組み
「工賃」とは何か
B型では雇用契約を結ばないため、「工賃」として作業に対する対価が支払われます。
これは給料ではないので:
- 最低賃金の適用がない
 - 労働基準法の適用がない
 - 社会保険料の控除がない
 
工賃は「作業の成果に対する謝礼」という位置づけです。
工賃の決まり方
作業量や出席日数に応じて計算
- 出席日数 × 日額
 - 作業時間 × 時間額
 - 完成した作業量 × 単価
 
事業所により計算方法は異なりますが、「頑張れば頑張るほど多くもらえる」という仕組みが基本です。
全国平均の工賃額
2024年の最新データ
厚生労働省の調査によると、B型事業所利用者の平均月額工賃は17,031円(2024年実績)でした。
時間単価に換算すると
- 平均時給:約243円
 - 1日の平均工賃:約800円~1,200円
 - 月の平均出席日数:15~20日
 
過去5年間の推移
| 年度 | 平均月額工賃 | 前年比 | 
|---|---|---|
| 2020年 | 15,776円 | – | 
| 2021年 | 16,507円 | +731円 | 
| 2022年 | 16,118円 | -389円 | 
| 2023年 | 16,821円 | +703円 | 
| 2024年 | 17,031円 | +210円 | 
少しずつ上昇していますが、上昇幅は小さいのが現状です。
地域による工賃の差
都市部と地方の違い
都市部(東京、大阪、愛知など)
- 月額平均:2万円~3万5,000円
 - 時間単価:300円~500円
 - 企業からの委託作業が多く、単価が高め
 
地方(東北、九州、四国など)
- 月額平均:1万2,000円~2万円
 - 時間単価:200円~350円
 - 農作業や軽作業が中心で、単価が低め
 
工賃の幅が大きいのがB型の特徴
高い工賃の事業所
- 月額4万円~6万円
 - 専門的な作業や付加価値の高い商品製造
 
低い工賃の事業所
- 月額3,000円~8,000円
 - 簡単な軽作業や内職的な作業
 
同じ地域でも事業所により10倍以上の差があることも珍しくありません。
工賃が高い事業所の特徴
付加価値の高い作業を行っている
製造業
- パンやお菓子の製造・販売
 - 手工芸品の製作
 - 印刷・デザイン業務
 
サービス業
- カフェ・レストランの運営
 - 清掃サービス
 - データ入力業務
 
農業・園芸
- 有機野菜の栽培・販売
 - 花卉栽培
 - 加工食品の製造
 
販売ルートを持っている
直販店舗
- 事業所内の店舗
 - 地域のイベント出店
 - インターネット販売
 
安定した受注先
- 地域企業からの継続的な委託
 - 自治体からの業務受託
 - 福祉ショップでの商品販売
 
利用者のスキルを活かす体制
個人の特性に合わせた作業分担
- 集中力のある方:細かい作業
 - コミュニケーション能力の高い方:接客
 - 体力のある方:運搬や清掃
 
実際の工賃例
Aさん(月額3万5,000円の場合)
事業所:パン製造・販売 出席:月20日、1日5時間 作業内容:パンの製造補助、店舗での販売 工賃:日額1,750円
「お客さんに『美味しい』と言ってもらえるのが嬉しくて、工賃以上のやりがいを感じています」
Bさん(月額8,000円の場合)
事業所:軽作業中心 出席:月12日、1日3時間 作業内容:袋詰め、シール貼り 工賃:日額670円
「体調に波があるので、無理のないペースで通えています。少しでも工賃がもらえるのは嬉しいです」
B型の工賃で生活はできるのか?
正直なところ、B型の工賃だけでは生活は困難
月額1万7,000円の場合
- 食費にもならない程度
 - 交通費やお小遣い程度
 
月額3万円の場合
- 食費の一部
 - 日用品や趣味の費用
 
B型利用者の実際の収入構成
多くのB型利用者は、複数の収入源を組み合わせています:
障害基礎年金
- 1級:月額約8万6,000円
 - 2級:月額約6万9,000円
 
生活保護
- 地域により異なるが月額12万円~15万円
 - B型の工賃は収入認定されるが、基礎控除あり
 
家族からの支援
- 実家暮らし
 - 生活費の援助
 
収入例のシミュレーション
パターン1:障害基礎年金受給者(実家暮らし)
- 障害基礎年金2級:69,000円
 - B型工賃:20,000円
 - 合計:89,000円/月
 
実家暮らしなら、お小遣いとしては十分な額です。
パターン2:生活保護受給者(一人暮らし)
- 生活保護費:130,000円
 - B型工賃:15,000円(基礎控除後の収入認定額)
 - 実質収入:約140,000円/月
 
一人暮らしでも安定した生活ができます。
工賃以外のB型のメリット
金銭面以外の価値
工賃は低くても、B型には多くの価値があります:
社会参加の場
- 家庭以外の居場所
 - 人との交流
 - 社会とのつながり
 
生活リズムの確立
- 定期的な外出
 - 規則正しい生活
 - 目標を持った日々
 
スキルアップの機会
- 新しい作業の習得
 - コミュニケーション能力の向上
 - 責任感の育成
 
利用者や家族の声
利用者Cさん(50代) 「工賃は月1万5,000円程度ですが、みんなと一緒に作業をして、完成した時の達成感は何にも代えられません」
利用者Dさんの家族 「以前は家に閉じこもりがちでしたが、B型に通うようになって表情が明るくなりました。工賃の額よりも、本人が生き生きしていることが一番です」
より高い工賃を得るためのポイント
事業所選びが最重要
事前に確認すべき項目
- 平均工賃額(利用者全体の平均)
 - 最高工賃額(頑張ればどこまで上がるか)
 - 工賃の計算方法(日額制、時間制、出来高制)
 - 作業内容と単価
 
見学時のチェックポイント
- 利用者が意欲的に作業しているか
 - 完成品の品質は高いか
 - 販売ルートは確保されているか
 - スタッフの指導は適切か
 
個人でできる工賃アップの方法
出席率を上げる
- 体調管理を心がける
 - 定期的な通院で症状をコントロール
 - 無理のない範囲で出席日数を増やす
 
作業スキルを向上させる
- 作業効率を上げる工夫をする
 - 品質の向上を心がける
 - 新しい作業にチャレンジする
 
積極的な参加
- 作業以外の活動(販売、広報など)に参加
 - リーダー的な役割を担う
 - 後輩の指導をサポート
 
B型から次のステップへ
A型への移行
工賃に満足できない場合、A型への移行も可能です:
移行の条件
- 週20時間以上の勤務が可能
 - 基本的な作業能力の習得
 - 体調の安定
 
移行のメリット
- 月額8万円以上の収入
 - 雇用保険への加入
 - より本格的な就労体験
 
一般就労への挑戦
B型での経験を活かして、一般企業への就職も目指せます:
就労移行支援の利用
- B型から就労移行支援への切り替え
 - 2年間の就職準備訓練
 - 一般企業での実習機会
 
工賃に関するよくある質問
Q: 工賃に税金はかかりますか?
A: B型の工賃は「雑所得」として扱われますが、年間20万円以下であれば確定申告の必要はありません。ほとんどの利用者は非課税です。
Q: 工賃が少ない月があるのはなぜですか?
A: 以下の理由が考えられます:
- 出席日数が少なかった
 - 受注量が少なかった
 - 作業効率が下がった
 - 事業所の経営状況
 
Q: 工賃の支払いはいつですか?
A: 多くの事業所では月末締め、翌月15日~25日頃の支払いです。現金支給と銀行振込の両方に対応している事業所が多いです。
Q: 遅刻や早退があると工賃は減りますか?
A: 事業所により異なりますが、多くの場合は実際に作業した時間に応じて工賃が計算されます。
まとめ
就労継続支援B型の工賃について、重要なポイントをまとめます:
全国平均
- 月額約1万7,031円(2024年実績)
 - 事業所により月3,000円~6万円と大きな差
 
生活について
- B型の工賃だけでは生活は困難
 - 障害基礎年金や生活保護との組み合わせで生活を支える
 - 金銭面以外の価値(社会参加、生活リズム)も重要
 
事業所選びがカギ
- 工賃に大きな差があるため、事前の情報収集が重要
 - 見学・体験を通じて実際の様子を確認
 - 自分の体調や能力に合った事業所選び
 
将来への展望
- A型や一般就労への移行も可能
 - B型での経験がステップアップの基礎になる
 
B型の工賃は決して高くありませんが、「働く」ことの第一歩として、また社会参加の場として大きな意味があります。
工賃の額だけでなく、自分らしく過ごせる場所かどうか、成長できる環境かどうかも含めて、総合的に判断することが大切ですね。
※注意事項 この記事の内容には誤りがある可能性があります。実際のサービス利用を検討される際は、お住まいの市役所・区役所の障害福祉担当課や各事業所で、最新の正確な情報をご確認ください。
就労支援の現場で働かせていただく中で感じることを含めて、できるだけ現実的で役立つ情報をお伝えできるよう心がけています。

  
  
  
  
