「難しい」が人を変える―ある利用者さんの成長物語

就労支援について

「考えなくてもできるから楽なんです」

梱包作業をメインに担当されていた利用者さんは、そう話していました。確かに、慣れた作業は安心感があります。手はさくさくと動き、ミスもない。一見、理想的な状態に見えました。

余裕が生んだ「余計な思考」

しかし、考えなくても手が動くということは、頭に余裕があるということでもありました。その余裕が、良い方向には向かわなかったのです。

周りの人が気になる。嫌なことばかり考えてしまう。気づけば噂話をしたり、大声で話したり。ご本人も、周囲も、少し疲れてしまう状態が続いていました。

転機となったパソコン作業

ある日、思い切ってパソコンでの文字入力をお願いしてみました。

「パソコンなんて、ほとんど触ったことがない」

不安そうな表情でしたが、挑戦していただくことにしました。

静かな変化

パソコンの前に座った利用者さんは、驚くほど集中していました。静かに、黙々と、画面と向き合う姿がありました。

そして後日、こんな言葉を聞かせてくれました。

「難しいけど、余計なことを考えなくなって、気持ちが楽になりました」

この言葉に、私たちは大切なことを教えられました。

広がる世界

前向きで明るくなった利用者さん。コミュニケーションも円滑になり、新しく来られた利用者さんに仕事を教える姿も見られるようになりました。

「難しいかな」と私たちが躊躇していたことが、ご本人にとっては良いチャレンジになり、達成感につながり、自己肯定感を高めることになったのです。

そして最近、嬉しい言葉をいただきました。

「次は画像作成とか、教えてもらえますか?」

私たちが学んだこと

「楽な作業」が必ずしも「その人にとって良い作業」とは限らない。

適度な難しさ、集中を要する作業が、余計な思考を止め、心を穏やかにすることもある。

私たち支援者は、つい「できること」「慣れたこと」を中心に考えがちです。でも、時には「少し難しいこと」「新しいこと」にチャレンジしていただく勇気も必要なのかもしれません。

その人の可能性を信じて、一歩踏み出すお手伝いをする。それが私たちの役割なのだと、改めて気づかされた出来事でした。


利用者さんの成長は、私たち支援者にとっても大きな学びです。これからも、お一人お一人に合った支援を模索していきたいと思います。