質問が「責め」に聞こえるとき―コミュニケーションの難しさと支援の課題

就労支援について

先日、外部から委託を受けている作業について、委託元の担当者が視察に来られました。

その時の出来事から、コミュニケーションの難しさと支援者としての課題について、考えさせられることがありました。

その時の様子

担当者は利用者さんに、「普段どんなふうに作業を進めてくれていますか?」と質問されました。

淡々とした口調で、決して責めているわけではない、ごく普通の質問でした。

でも、利用者さんの表情が少しずつ曇っていきました。

受け答えが、だんだんと喧嘩腰になっていく。

雲行きが怪しくなってきたのを感じました。

その場では「大丈夫」

担当者が帰られた後、利用者さんはいつも通りの様子でした。

「大丈夫そうだな」

そう思って、私もあまり深く聞きませんでした。

でも、週明け。

利用者さんが言いました。

「先週から、ずっと腹が立っている」

「なぜ怒られているのかわからない」

「こっちは作業をして、お礼を言われる側なのに」

時間差で湧いてくる感情

その場では大丈夫そうに見えても、家に帰って一人になると、考える時間ができます。

そして、考えれば考えるほど、よからぬ方向に思考が偏ってしまうことがある。

「あの質問は、責められていたんだ」

「自分のやり方が悪いと言われたんだ」

「頑張っているのに、認めてもらえない」

感情の整理には、時間がかかります。

そして、時には整理がつかずに、モヤモヤが膨らんでしまうこともあります。

誤解が生まれる背景

なぜ、普通の質問が「責め」に聞こえてしまったのか。

利用者さんには、相手に対して斜に構えて考えてしまう癖があるようです。

「きっと、何か文句を言いたいんだろう」

「自分のやり方がダメだと思われているんだろう」

そう先回りして考えてしまう。

だから、受け答えも喧嘩腰になってしまう。

これは、決して利用者さんが悪いわけではありません。

過去の経験から、そう身構えてしまうのかもしれません。

でも、その癖が人間関係を難しくしてしまうことも、確かです。

支援者としての課題

この癖を、どう伝えればいいのか。

「あなたは斜に構えすぎです」と言うのは簡単です。

でも、それでは傷つけてしまうだけかもしれない。

「相手は責めているわけじゃないよ」と説明しても、「でも、あの言い方は…」と返ってくる。

どう伝えれば、利用者さん自身が気づき、変わっていけるのか。

これが、私たち支援者の大きな課題です。

もう一つの大切なこと

そして、もう一つ伝えなければならないことがあります。

事業所は、委託元から仕事を受けて、お金をもらっている立場だということ。

利用者さんは「お礼を言われる側」だと思っている。

確かに、一生懸命作業をしてくれています。

でも、それは「仕事」であり、対価を得ている関係です。

この認識のズレを、どう埋めていくか。

これもまた、難しい課題です。

「認められたい」という思い

「頑張っているのに、認められない」

利用者さんの、この言葉が心に残ります。

私たちは、認めているつもりです。

追加工賃として、きちんと評価も反映させています。

でも、それだけでは足りないのでしょうか?

過剰に褒めることが必要なのか?

それとも、別の形で承認を伝える必要があるのか?

考えさせられます。

コミュニケーションの難しさ

今回の出来事で、改めて感じたこと。

コミュニケーションは、本当に難しい。

同じ言葉でも、受け取り方は人それぞれ。

「質問」が「責め」に聞こえることもある。

「確認」が「疑い」に感じられることもある。

言葉だけでなく、その背景にある感情や経験が、受け取り方を大きく左右します。

その場でのフォローの大切さ

今回、私が反省したのは、その場でのフォロー不足です。

雲行きが怪しくなったとき、もっと早く介入すべきでした。

担当者が帰られた後、「さっきの質問、責められているように感じた?」と聞いてみる。

「あれは、普通の確認だったと思うよ」と、その場で伝える。

そうしていたら、週末にモヤモヤを抱えることもなかったかもしれません。

タイミングを逃すと、感情は膨らんでしまいます。

私たちにできること

この出来事から、私たち支援者ができることを考えました。

1. その場での気持ちの確認

何かあったとき、「大丈夫そう」で済ませない。

「今の、どう感じた?」と聞いてみる。

2. 誤解をほどく手伝い

「相手はこういう意図だったと思うよ」と、別の視点を提示する。

押し付けるのではなく、「こういう見方もあるよ」と。

3. 仕事の立場を丁寧に説明

「お礼を言われる側」という認識を、優しく修正していく。

「仕事として対価をもらっている」という関係性を、繰り返し伝える。

4. 承認の伝え方を工夫する

工賃だけでなく、言葉でも態度でも、「見ているよ」「認めているよ」と伝える。

でも、過剰にならないバランスを探る。

5. 週明けのフォロー

週末を挟んだ後は、特に気にかける。

「週末はどうだった?」「何か気になることはない?」と声をかける。

正解はないけれど

この課題に、簡単な正解はありません。

一人ひとり、背景も感じ方も違います。

でも、だからこそ、私たち支援者は考え続けなければいけない。

「どう伝えれば伝わるのか」

「どう関われば成長を支えられるのか」

「どうすれば、お互いに心地よい関係が築けるのか」

試行錯誤の連続です。

今回の気づきを次に

今回の出来事は、私にとって大きな学びになりました。

  • その場でのフォローの大切さ
  • 時間差で湧く感情への理解
  • 認識のズレを埋める難しさ
  • 承認の伝え方のバランス

これらを意識しながら、これからも支援を続けていきます。

完璧にはできないかもしれない。

でも、一つ一つの出来事から学び、少しずつ良くしていく。

それが、支援者としての成長なのだと思います。


コミュニケーションの難しさと向き合いながら、日々支援を続けています。正解がない中で、試行錯誤しながら、利用者さんと共に成長していきたいと思います。

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